76年後の奇禍 1

雑記

コロナ禍になってから一時期閑古鳥が激しく鳴いていた仕事も、ようやくなだらかに右上がりに転じてきたかと思われて、わが家的には平和な日々が続いていたところに降って湧いた厄介ごとの話である。

母から電話がかかってきた。父の生家のあるT県から1通の封書が来たという。

Terrible Old Days

T県の生まれで幼少期はその地で暮らしたこともあるものの、父(以後、彼)は今でいうと中学生くらいの年齢の時に大阪に出てきて、それ以来里帰りのようなことはしたことがない。

昭和8年に生まれた彼の両親は周囲からはあまり祝福されなかったようだ。結婚はしたようだがその後離婚している。
その後彼の父は再婚をし、後妻との間に4人の子どもをもうける。後妻にとっては彼は目障りな存在だったらしい。とうとう昭和22年に彼は14歳でT県の実家を追われ大阪に出る。おそらく親戚や周囲の人が気の毒がって世話をしたのだろう。住み込みで働きながら大阪に暮らすことになる。

以後、1度も生家には帰らない。子どもゆえに何の抵抗もできず厄介払いされた彼からすれば、そこが自分の家であるという意識も当然のようになかった。帰らないどころか連絡すら一切を断ち、いつか血縁者たちがどこで暮らしているのかすら知らないようになった。

もちろん厄介払いした側も彼に連絡などよこすはずもない。

立腹のち悲哀…そして我にかえる

封書を開けるとそれは滞納税の支払いの督促だった。

しばらく前に彼の異母兄弟が亡くなっており、その相続分の滞納税の支払いを求められているのだった。なんと76年間姿も見ず、声も知らず、便りの1通すらなかった兄弟の、死んでしまったことも知らなかった兄弟のマイナスの遺産が突然に降りかかるという理不尽。

哀しいかな、その額9,000円あまり。相続割合は 2/7。計算してみても滞納税の総額は3万円と少しである。そして他の相続者はみな相続を放棄したと記してある。

しかしそんな感傷に浸っている場合ではない。この郵便の到着から3ヶ月以内に速やかに相続放棄の手続きを取らなければならない。

3万円余りのマイナス遺産を放棄するのだから、その他にどれだけの負債があるのかしれない。たかだか9,000円とうっかり放棄せずに支払ったら巨額の負債まで背負い込むということになりかねない。

とにかく76年間音信不通、行方知れず(向こうにしてみればこちらがそうだったかも知れないが)で、そうなった経緯からみるともう他人よりも遠い存在と言っていい相手なので、何しろこちらには何一つ情報がないのだ。こういう通知があったのでかろうじて死んだことはわかったが、もし巨額の富など築いていて負債がなければこちらは死んだことも知らなかったろう。

相続放棄に向かってゴー

そんなわけで早速相続放棄の手続きについて調べてみた。76年前と違って今は便利な時代だ。ちょろっとググってみると必要なものは以下のようだ。

  • 相続放棄申述申立書と必要書類を一緒に管轄の家庭裁判所に提出する
  • 申立書は裁判所に置いてある。ウェブページからもダウンロード可
  • 800円の収入印紙+84円×5枚の切手
  • 郵送でもできるが、一般の方は裁判所に提出に出向いたほうがいい
  • 一般的に問題がなければ1か月位で手続き完了
  • 被相続人の戸籍謄本と住民票と自分の戸籍謄本が必要

だいたい何となく自分でもできそうな気がする。何でも弁護士先生に依頼すると10万円程度の案件らしい。さすがに9,000円の請求に10万円かけてお断り差し上げるのはアホラシヤの鐘が鳴るというものだろう。

しかし僕の場合の問題は相手の住所も本籍地もまったくわからないということだろう。戸籍謄本や住民票をどこの役所に掛け合えばいいのか…。

とにかく手掛かりは1通の封書。とりあえずはここから当たってみることにする。

このお話、つづく。

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