76年後の奇禍 3

雑記

T県Y町から送られてきた「納税義務承継通知書」なるものによって突然に知らされた遺産相続の権利。しかも負の遺産の相続権。どうやら優先される相続人たちは相続放棄した模様。

急ぎこちらも相続放棄の手続きを取らねばならない。

気が遠くなる放棄までの道のり

相続放棄には以下のようなものが必要だということはわかった。

  1. 死んだ人(被相続人)の住民票(すでに死亡しているので除票)
  2. 死んだ人の生まれた時から死んだ時までのすべての戸籍謄本
  3. 死んだ人の父母/祖父母の死亡の記載のある戸籍謄本
  4. 放棄する人の戸籍謄本

死んだ人と相続する人の関係が普通の兄弟や親類ということであれば、これらの取得になんの問題もないだろう。しかし今回の私の父の場合は様子が随分と異なる。一切の付き合いがないのだ。事が起こるまで電話番号はもちろん住所も知らなかったのだ。

こんな状態で上記の 1〜4の場合についてどのように取得するのかを考えてみた。

1は「納税義務承継通知書」に死んだ人(被相続人)の住所の記載があったし、4は父の戸籍なので問題なく取得できそうだ。

2の「死んだ人の生まれた時から死んだ時までのすべての戸籍謄本」。まずこれが第1の問題である。

これまでアカの他人同然であった人の「出生から死亡まで」の戸籍謄本を取得するにはどうするのか悩みに悩んだ。結果到達した結論はこうだ。

父と被相続人は2年間ほど一緒に暮らしていた期間がある。まずそこの戸籍謄本を取得する。戸籍には必ず戸籍に入った時はもとの戸籍の場所、出た時には出た先の戸籍の場所が記載されている。一緒に暮らしていた期間の戸籍から順に被相続人を辿っていけば良いということになる。ただし取得する戸籍が何通になるかは、ひとまずその基礎となる戸籍謄本を 1通取得してみて順繰りに辿ってみるしかない。もし被相続人が何度も本籍地を移動していた場合はかなりの手間を覚悟しなければならない。

そして3の「死んだ人の父母/祖父母の死亡の記載のある戸籍謄本」。これが第2の問題。

これも2と同様にして辿っていくことになる。僕の父の母親と被相続人の母親は異なるので、一体どこの出身で、さらにはその父母まで辿っていかねばならないとなると気力と時間がいくらあっても足りなさそうな、本当に気が遠くなりそうな話だ。

一筋の光明

調べ上げたそんなこんなを両親に報告して今後の方策を話していたとき、母がふとため息混じりにこう呟いた。

「兄弟の誰か一人でも電話番号がわかってたらよかったになぁ…」

なるほど。これまで一切お互いに行方すら知らなかったとしても、ことがことだから電話をするということも確かに選択肢に入る、と納得した途端に思いついた。

確かネット上に過去の電話帳の情報が存在するはずだ。出始めた頃には個人情報をネット上に晒す行為として批判もあったが、最近ではこのことについては何も聞かなくなった。携帯電話がここまで普及して、固定電話が「個人の確固とした存在を示す信頼に足るもの」としての役割を果たさなくなってきたからだろう。それはともかく、被相続人の名前と住所はわかっているのだから、ネットで検索すれば電話番号がわかるかもしれない。被相続人も80を超えた老人だったし固定電話を解約するという可能性は低い。これはいけるかもしれない。

そう思って被相続人の名前でネット検索をかけてみたら、果たせるかなバッチリ電話番号に辿り着いた。即、電話をかけてみたところ、どうやら留守のようだった。留守番電話にもならないし、もしかしたら被相続人が亡くなってすでにそこには住んでいないのかもしれない。そうは思ったものの、この一筋の光明を目指さないわけにはいかない。2時間ほど経って自宅から再度電話をした。

4、5回のコールののち、受話器の向こうから声が返ってきた。

「はい、Tでございます。」

年配の女性の声。どうやら被相続人の奥さんのようだ。Tと名乗られて初めて思い出したが、父と被相続人は兄弟だった。苗字は一緒だ。僕の苗字は日本のごく一部(僕の下の本籍地だったT県T郡の一部地域)を除いてはあまりない苗字なので、僕はこれまで同姓の人には出会ったことがない。なんだかおかしな感じだ。ちょっとドキマギしてしまって、さて僕はどう名乗るべきなのか、とおかしなことを一瞬考えた。そう思ってみても名乗るべき名前は一つしかない。

「突然のお電話申し訳ありません。私、大阪のTと申します。」

「はあ…」

向こうにしてみたら狐に摘まれた気分だったかもしれない。大阪訛りの男が電話をしてきて同じ名前を名乗っている。

とりあえず、なぜこういうことになったかを話さなければいけない。

「実はお亡くなりになったTさんと私の父Mは兄弟でして…」と、ことの経緯を話す。

つづく

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