とうとうスター・トレック:ピカードも終わりを迎えてしまった。本当はこれまですべてのエピソードについて感想を書きたかったのだが、書きたいことが多すぎてどうしてもまとまりを欠いて支離滅裂になってしまいそうで、1つ2つのエピソードに対して少しだけしか書けないでいた。
しかしとうとう最後。流石にこれは書かずにはいられないことだらけで、見終わってから1週間かけてやっと書くことが出来た。
ここからは全編ネタバレのオンパレードとなります。まだ観ていない人はぜひエピソード10を観てからどうぞ。1度観てからここを読んで、さらにもう一度観る。これがオススメ!
エピソード9では
ジャックを執拗に狙う可変種によって艦隊が狙われていることがわかった。しかし艦隊を危機に落とし入れようと画策していたのは実はボーグであった。ボーグは全艦隊が集結するフロンティア・デーに合わせて艦隊の若年層をすべて同化してしまった。
同化された若者たちによって乗っ取られたすべてのスターシップが、今まさに地球に照準を合わせようとしていた。
オープニング
冒頭スペースシップが手前から奥に飛んでいって、画面左から右に抜けた後に「STARTREK」のロゴが艦隊のマークとともに現れる。このオープニングロゴの登場シーンがこれまでのエピソード1〜9と異なっていたことに気づいただろうか。
わかりやすいのは「STARTREK」のロゴがノイズが入ったように崩れかかっていることだが、飛び回るスターシップも最後だけ特別だ。
エピソード1〜9までは(おそらく)タイタンなのだが、このエピソード10ではエンタープライズDになっている。この辺りの細かい配慮、実にTNGファンの心をくすぐる演出だ。
エピソード10のスタート
チェコフといえばTOSに登場したはず。おや?この時代にまだ生存?と思ったら、どうやら息子らしいことが、通信のなかの「父が生きていたら…」というセリフからわかる。ちなみにTOSのチェコフは「パヴェル・チェコフ」。アントンの声はパヴェル・チェコフを演じたウォルター・ケーニッグとのこと。
TOSの始まりを描いた2009年の映画「スター・トレック」の中で若き日の「チェコフ」を演じたのは「アントン・イェルチン」という俳優で、残念ながらその後彼は若くして事故死してしまっている。おそらく「アントン・チェコフ」という名前は彼の名前から取られたのではないかと思う。
僕はいつも思うんだが、ジョーディの話すリズムってとても心地いい。黒人特有なのかと思ったりもするんだけど、同じ黒人のウォーフの言葉にはあまり感じられない音程とリズムの抑揚が感じられる。なんというかラップ的な弾むようなリズム感が感じられるんだよなぁ。
そしてまたクルーの配置がいいよね。館長の左には副長がいて、右にカウンセラー。操舵手はデータだ。馴染みの位置。もうなんの違和感もなく没入できる配置だよ(ただしTNGファンに限る)。
カメラは木星に到着したエンタープライズを正面から映し出す。そこからエンタープライズの鼻面を舐めながら通り過ぎて後ろに回る。するとエンタープライス越しに茶色いガスに包まれた木星の姿。この辺りのカメラワークが絶妙!間近に映されるエンタープライズのちょっと古びた外壁や、後ろから見る馴染みのワープナセルの青白い光、エンタープライズDの姿は本当に美しい!
エンタープライズを進めるときにクルーはピカードの心情を思い、ジョーディはデータとかを一瞬見合わせ、ライカーとトロイはピカードを見やる。それぞれにピカードと同じ決意を心に刻む台詞のない心理描写だが素晴らしいクルーの演技。ライカーとトロイがピカードを見るタイミングが絶妙にずれているのだが、同時だとかえって変に見えるだろう。一切不自然さなく緊迫した空気感とクルーの一体感が表現されている。ただこの中で一人ウォーフだけはいささか気の抜けたような自然体に近い雰囲気を纏っているように見えて、それがまたウォーフの戦士らしさ(常に覚悟を持っている=ウォーフにとっては自然体)の表れのような気がする。
この後「スター・トレック:ピカード」のロゴとタイトルが表示される。タイトルは「The Last Generation」である。なんとなくTNGのナレーションの一部「The Final Frontier」と呼応する雰囲気が感じられるが、僕は英語話者ではないので単なる勝手な深読みかもしれない。
この時セブンたちはフェイザーを使って命中した相手を転送させるという技術を開発したようだ。そうして同化された大切なブリッジクルーたちを傷つけないように配慮したということだろう。何せそこにはジョーディの娘が2人も含まれているからね。そうしてとりあえず同化されたブリッジクルーを第1転送室に閉じ込め、ブリッジの奪還にひとまず成功する。しかしセブンたちも厳選されたメンバーではなく寄せ集めであることがわかる。一人はコックで宇宙船の操作もおぼつかない状態らしい。
データもキューブに乗り込むことを志願するがエンタープライズの操縦に必要不可欠ということで却下される。その時のデータが悔しそうな顔をして意気消沈する。確かにデータは昔のデータではなく、感情を持った人間そのものになったようだ。そういえばデータの顔はもう白くないしね。
ターボリフトに乗り込む直前のピカードのセリフがもうエンタープライズに帰ることがないということを覚悟していることが窺える。決死の潜入なのだ。そう思うとその前にジョーディに言った「You have a bridge.」というセリフはとても重いセリフだなぁ。
2人との別れ際のピカードのセリフは思わず漏れ出そうになる嗚咽を堪えて発せられる。感情が揺さぶられる瞬間だ。ライカーとピカードの絆が感じられる。さらにウォーフの言葉が痺れる。このシーズンのウォーフは常に戦士然としてカッコ良すぎる!
「クリンゴンが決して認めない言葉が二つある。”敗北”と”別れ”だ。」
コックの操舵手は「艦隊と戦うんですか?」と怖気付くが、セブンがピカードばりの演説でタイタンの寄せ集めのブリッジクルーの勇気を奮い立たせる。すっかり「艦長」となったセブンの姿が印象的。実に堂々としてしてショー艦長が死の間際に艦長として認めたことが間違いではなかったのだとはっきりとわかる。
ボーグについてはちょっとよく捉えきれていないところが多いのだけれど、ボーグクイーンはどうやら何人かいるらしい。ボーグがいくつかの種族に分かれていて、それぞれにクイーンがいるというような感じなのかな。
どうやらこのボーグはVOY(スター・トレック:ボイジャー)の最後でジェインウェイ艦長にやられたボーグらしい。シーズン1だか2だかでボーグクイーンになってしまったあの童顔の博士ジュラティとは違うみたい。彼女は彼女で元気暮らしているのかな。
目まぐるしく展開する戦闘シーン
この部分は実に目まぐるしい展開。戦闘が起こっている場面(すべての場面が戦闘なのだけれど)が次々に切り替わって息もつけない。その中でもライカーがウォーフに呆れて「フェイザーがあるのに使わないとは…」と問いかけたのに対してのウォーフの「剣が楽しい」という答え。実にウォーフらしくて好きだなぁ。名誉ある死に向かって生き続けるクリンゴン戦士らしいエピソードになったと思う。
ビーコンの位置を発見した時、字幕には表現されていなかったがトロイは「The good news is…」(ビーコンの位置が判明したのはいいニュースだ)と言って、それに続いてデータは「The bad news is …」(キューブの中心に位置しているのは悪いニュースだ)と言っている。とても英語らしい言い回しでトロイとデータというクルー間の連携の確かさ(仲の良さ?関係の良さ?)をセリフの連携でも表しているところだと思う。リズムも良くて聴いていて心地いい。この「〜:ピカード」の最初の頃のトロイはTNG時代のアクセント(確かどこかでイスラエルのアクセントを真似たと聞いたことがあるような気がするのだが…)を忘れたような感じだったが、回が進むにつれあの舌ったらずな感じのちょっと魅力的なアクセントが蘇ってきたような気がする。
そしてなんと言ってもこの場面の見どころはデータが「直感」(データの直感なんて!)にしたがって行動を起こして、危険な操縦を楽しんでしまうところにあるよね。
データ「ダメ元だぜ!」
トロイ「ダメ元って何それ!」
データ「いくぜー」
トロイ「楽しんでない!?」(Why my sensing enjoyment?)
データは新しくなってもやっぱり我々人間を驚かせ、楽しませてくれる。データらしくても面白いし、データらしくなくても面白い!
ここで描かれるのは絶体絶命の危機の中でのトロイとライカーの想い。トロイはライカーの身を案じ、ライカーは「愛するイムザディさえ生きていればいい。ピカード艦長のこれまでの恩に報いるのは今しかない。ここで彼を見殺しに自分だけ生き残ることはできない。」そういう想いだったのではないだろうか。キューブの奥深くに踏み込んでいくライカーにウォーフはこう話しかける。
「一瞬、死なずに終わるのかと心配になりました。」
冗談とも本気ともつかないウォーフのこの言葉だが、この状況の中ではかっこよく頼もしくもあり楽しくもある。実際にカメラに向かって進むライカーの表情は笑顔だ。
あるいは絶体絶命の危機に際して死を覚悟した人間の心の中は案外と平常心なのかもしれない。ウォーフは常に死を意識しているから縁起でもない冗談も言うし、空気を読まない言葉をすぐに口にするんだろう。死を非常に身近に置くクリンゴンならではなのだろうか。
そしてクライマックス
集合意識の中でジャックと話すピカードはようやく艦隊提督ではなく、1人の父親として接することができた。父として息子が落ちて行こうとしている地獄にまで共にゆこうと、大きな愛で息子に寄り添った時にジャックは覚醒した。思春期の子どもを持つ親として何が本当に大切なことなのかを改めて教えてもらったような気持ちだ。
崩れ始めたキューブを見てライカーがこれで満足か(Well. My friend, is it good enough?)とウォーフに尋ねた時、ウォーフは眉ひとつ動かさず、当然のように答える。
「It is a fine day indeed, to die with honor.」(名誉ある死を遂げるにはいい日だ。)
ひたすらにカッコいいウォーフ!好きだわ。
そしてライカーのトロイへの最後のメッセージ(になるはずだった言葉)がトロイに本当に届く。ライカーの愛、トロイの愛が、そしてピカードの愛がすべてを救う。
ジャックがクイーンに向かって「No, I`m not alone.」と言うと同時に真上に飛び込んでくるエンタープライズ号。もう最高の展開じゃないですか。椅子の上でお尻が躍ります。
緊迫の連続を終え、やっと安心できるシーンがやってきた。ボーグ化されていたシドニー(ジョーディの娘)の涙を支えるのは、やはり元ボーグであったセブン。シドニーのあの涙は上官にフェイザーを向けるという恐ろしい行動をとったことと、ボーグ化され操られていた間の自分が自分でなかった恐ろしい記憶、そこから解放されたことによる涙だったのだと思う。そしてそのことを一番よく理解・共感できるのはセブンを置いて他にないだろう。
エンタープライズに帰ってきたTNGメンバーはとても静かに無言で、だが最大限に温かく迎えられている。本当の危機を脱した後というのはこういうものなのかもしれない。脱力と安堵と喜び。
日本のドラマや映画などではあまり見られないが、欧米のものではライカーとトロイのような年配の男女のキスシーンもよく見られる。ライカーらの場合は夫婦だがそうでない場合も多い。それが僕らが見て変に映らないのは、欧米人のそれだからなのか、自分もそれなりにおっさんだからなのか、最近はよくわからなくなってきた。
そういえばピカードがジャックを迎えて「Welcome to The Enterprise.」と言った時に初めて「ああ、そういえばジャックはエンタープライズに初乗船だったな。」と気づいた。一度でいいからあのブリッジに入ってみたいなぁ。
新しい艦隊ではクラッシャーが医療部門の責任者となり、転送装置内のボーグ遺伝子組み込みアルゴリズムを除去したのはもちろん、可変種を炙り出せるように改良を施した。しかし多くのすでに存在する可変種はそのままにしておいた。
セブン、ラフィ、データ、ライカーとトロイのその後の姿も描かれる。
エンタープライズDが地球に帰っていくシーンで、ライカーのナレーションが入る。
“Captain’s log. Stardate…”
どうやらピカードはあの時本当に艦長を降りて1人の父親に戻ったようだ。
艦隊クルーになりすました可変種をそのまま生かす、という設定にしたことによって再びトゥボックの姿を見ることができた。この場面を見るとただ生かしただけじゃなく、そのままの地位で活かしたというべきかな。本物のトゥボックでないトゥボックがセブンに対して「罪に問わない」とか「艦隊を辞すという希望は却下する」とかちょっと偉そうにしているところがなんだかチグハグな感じがしておかしい。
それにしてもショー艦長が最後に登場してくれたことは嬉しい。彼自身ボーグに対してトラウマを負っているにもかかわらず、ボーグっぽい(見た目の)副長を当てられ、彼は彼なりに個人的な恨みと艦隊の艦長職としての振る舞いの間で葛藤に揺れていた。そして最後にはセブン・オブ・ナインという名前も受け入れた。それは人間アニカ・ハンセンの中のボーグ時代のセブン・オブ・ナインを受け入れることでもあった。セブンがいたからハンセンがあるということであり、セブンと呼ばれることを誇りに思う彼女をついにリスペクトすることができたということである。ショー艦長、時に弱くて時にかっこいいただの「シカゴ出身のクソったれ」男を見事に演じてくれた。Todd Stashwick、いい俳優さんだな。
そしてそのショー艦長の人事評価のホログラムの後のセブンの目尻には涙が光っている。セブンの目にも涙。セブンもまたショー艦長のどうしようもない葛藤、生き残ってしまったことに対する罪悪感を理解していたのではないだろうか。
ラフィは念願の孫娘に会うことができそうだ。あれほど拒否してきた息子が手のひらを返すようにラフィを受け入れたのは、ラフィがヒーローとして報道されたから。そしてそれを演出したのはウォーフだった。何度も言うが、このシーズン3のウォーフは本当にカッコいいキャラで痺れてしまう。最後にあのハグ嫌いのウォーフがラフィにハグを求める。きっとウォーフはラフィを戦士として認め、愛したんだろうな。またそれを口にせずにハグで別れてしまいそうなところがウォーフのウォーフらしいところ。
以前から僕はクリンゴンは日本人、特にサムライをモデルにしているんじゃないかと思ってる。なんだか誇り高かった頃の、あるいは映画の中の日本男児という感じがしないだろうか?
ライカー、ピカード、ジョーディの3人がエンタープライズのブリッジから去っていくシーン。最後にライカーが言った「I miss that voice.」というセリフは、僕たちファンの気持ちでもある。このコンピュータの声の主はメイジェル・バレット。スター・トレックの創作者ジーン・ロッデンベリーの妻であり、カウンセラー・トロイの母ラクサナ・トロイを演じた女優さんでもある。彼女は2008年に亡くなっているのだが、今回のこの声は昔の音声から使用されたらしい。
なんとタイタンは名前を変えてエンタープライズとなった。しかしエンタープライズFは短い命だったなぁ。フォロンティア・デーの場面で見ただけだったよ。それにD ,E , Fと大型化していったのに急に小さくなったような気がするんだけど…。でもエンタープライズの名前を冠するのだから名誉あるスターシップということには変わりない。だからこそこの船の中ではセブンはラフィに対して「No.1」と呼びかけるのだし、最初の命令は「Engage.」なのか「Make it so.」(これら二つはピカード風)や「Take us out.」(これはカーク風)なのか迷うんだよね。セブンの最初の命令がなんだったのかはわからないんだけど、僕の頭の中にはやっぱり「Engage!」が響いてきたんだけど、みなさんはどうだったろうか。
このシーンではガイナン(ウーピー・ゴールドバーグ)の名前が出る。バーカウンターの中にはやっぱりガイナンがいてほしかったな。
乾杯の場面はジョーディがデータに乾杯の音頭をふる。そこでデータが話し始めるとすかさずみんなが「データ!」と話を遮る。これもデータの話が難解で異様に長くなることが初めからわかっていることからくるお約束のオチ。
まんまとからかわれたデータはピカードに乾杯の音頭を譲る。声をかけた時に忙しくカウンター内で仕事をしているピカードの後ろ姿になぜか「ああ、お爺さんになってしまったなぁ」と本当に歳を感じてしまった。
ピカードお得意のちょっといいひと言の後乾杯をして和やかにみんなの大好きなポーカーが始まる。円卓を囲むメンバーの笑顔。このシーン、本当にみんな撮影を忘れて楽しんで話をしているんではないだろうか。そんなふうに思わせてくれるいい笑顔をしている。僕としてはせっかくのポーカーの場面、データの華麗なカード捌きを見たかったなんて思ってしまった。
続くポーカーゲームの円卓を俯瞰で引きながら音量を上げてくるTNGのテーマ音楽。やっぱり最後がこのテーマだと締まるんだよなぁ。終わった感がハンパない!それもそのはず、このラストシーンはTNGのラストシーンと同じ構図!まさにラストにふさわしいシーンだ。と思っていたら、場面はジャックが荷解きしているシーンに切り替わる。「ん?」と思っていると突然に出ましたQ!なんとここでQが登場するとは。物語はこの後も続きそうな余韻を残して締めくくられる。
「うわぁ〜」と余韻に浸っていると画面にはスタッフクレジットが表示され始める。ん?なんだか見覚えのある…なんと!文字が全部TNGフォント!これは予想外の地味に嬉しい演出!にくいな〜。
このシーズン3、本当に最初から最後までTNG色をこれでもかとばかりに盛り込んだ、TNGファン歓喜のモリモリシーズンでした。
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